はじめに
皆さんは「山地酪農(やまちらくのう)」という言葉を聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?おそらく、「山間の傾斜地で牛が放牧されている」そんな場面が想像できたかと思います。ただ、牛って「広大な平野でのんびり草を食んでいる」っていうイメージが強いですよね。果たして本当に山間地で牛を育てることなんてできるんでしょうか?
前回のmowゼミの勉強会では、この謎多き「山地酪農」について調べて、発表しました!
山地酪農って何?
山地酪農とは「日本の山林の有効活用や飼料自給を目的として、山間傾斜地に牛を放牧し、そこに自生するシバなどを飼料として活用する放牧酪農」のことで、昭和30年代に理学博士の楢原恭二博士によって提唱されました。つまり、牛たちは山の斜面に放牧されて、そこに生えている草を主な餌として育っていくのです。
冒頭でも触れたように、「牛の放牧は平野で行われる」というのが一般的な認識だと思いますが、山地酪農されている牛たちは、山間の傾斜地を餌を求めてよく歩き回り、時には急斜面をのそのそと上り下りする姿も見られます。
山地酪農のメリット
では、そんな山地酪農にはどのようなメリットがあるのでしょうか。以下、メリットの一部をまとめてみました。
・一部飼料の自給が可能
山地酪農では、牛にあげる餌のうち粗飼料(乾草やサイレージのこと)と呼ばれるものは、基本的に山に自然に生えているシバで賄われることが多いです※1。現在日本の粗飼料自給率は8割弱程度。残りの2割は輸入飼料に頼っていますが、輸入飼料を使うことは、環境面・リスク面からみて持続的とは言えません。したがって、「牛の食べる分の餌を牧場のシバで賄える」という山地酪農の特徴は非常に理想的なのです。
また、「栽培に際して農薬や肥料の投入が必要な粗飼料を、自然の力で育つシバで置き換えることができる」という点にも山地酪農の環境負荷の少なさが表れています。
・牛が自由に行動できる
現在、日本で放牧がおこなわれている牧場は全体の1割にも満たず、そのほかの牧場では牛の行動が制限される管理方法で飼育されていることが多いです。牛本来の行動が制限されると、牛自身のストレスにつながる他、牛の身体にもダメージをきたし、牛にとっても生産者にとってもマイナスとなります。
山地酪農では、牛は「動きたいときに動き、食べたいときに食べる」そんな牛本来の行動ができるので、ストレスが少なく、健康です。
※1(一部、外部から飼料を投入する場合もあります。)
山地酪農で育った牛の牛乳
さて、今見てきたように普通の牛とは違うものを食べ、たくさん動く山地酪農の牛たちが出す牛乳にはどんな特徴があるのでしょうか?
まず1つ目に、「乳量が少ない」という特徴が挙げられます。山地酪農の牛は山を歩き回ることにもエネルギーを使うので、牛乳を作るためのエネルギーは比較的少ないです。そのため、舎飼いの牛に比べて作られる牛乳の量もおのずと少なくなります。
2つ目は「乳脂率が低い」という特徴です。これも1つ目と同じ理由で、低くなっています。一般に乳脂率は牛乳のおいしさと結びつけられて考えられますが、乳脂率が低い山地酪農の牛乳でも、そのおいしさは評価されています。乳脂率は必ずしもおいしさの条件であるとは言えません。
以上は客観的に評価することのできる項目ですが、ストレスを受けずに健康に育った牛からとれる牛乳は味わい深く、生産量が少ないため高価であるにも関わらず、人気があります。
終わりに
牛にとっても、人間にとってもストレスの少ない山地酪農。高品質な牛乳が採れる一方、乳量が少ないため、どうしても牛乳の値段が高くなってしまうという特徴もあります。
牛・人・環境のことを第一に考えれば、山地酪農は理想的な酪農方法ですが、今主流の「低コスト・大量生産」の牛乳の生産体系を否定するのも難しい気がします。ここから見えてくる、「環境や動物と調和のとれた畜産を、どのように推し進めていくのか」という課題について、農学部生として、常に模索していく必要があると感じました。
皆さんも、山地酪農を通じて畜産の未来を考えてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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